靖国問題について


ダブスタ&ゼロサム」に「Johnny style!」さんから靖国問題についての文章のTBもらったので、コメント代わりにちょっと書きます。

私のいいかげんなメモ書き程度のエントリーにTBすみません(笑)。あちらの力の入った文章に感心させられました。でも、非国際人さんが指摘するように、靖国参拝賛成派へ語りかけるなら、そちらの議論にも配慮して論じることも大切かな、とも思いました。

靖国問題について、私も思うところはめちゃくちゃたくさんあるのですが、面倒でいまさら書く気がしない、という情けない状態です。いろんなポイントがありますから、少しづつでも書いていけばいいんでしょうけど・・・。

靖国問題って、ほんとにいろんな論点があるんですよね。日本の戦争、日本の戦前史・戦後史、日本の歴史・文化・伝統・宗教、靖国神社そのものの歴史、靖国神社の歴史観、東京裁判、サンフランシスコ講和条約、中国共産党、中華人民共和国の歴史、韓国の歴史、国際政治、ナショナリズム、「つくる会」、天皇、遺族会、憲法、司法制度、政教分離、・・・・、いくらでも論点が出てきます。はっきり言って、真面目に書き出すとキリがないです。

思うこと全てを書くのは面倒なんで(すみません)、いくつかだけ書いときます。私は「ダブスタ&ゼロサム」では、リアリズムに関する問題として、靖国にちょっと触れました。「Johnny style!」さんは、外交問題としての視点から、靖国問題のいろいろな論点に触れてます。私も、外交問題としての靖国問題に関して、思うところはいろいろあるのですが、ここではちょっとだけにします。あちらで触れられてる論点のうちのいくつかについてだけにします。


「靖国参拝やめたって、日中関係が全てうまくいくわけじゃない」みたいな議論を、一部の政治家さんとかからよく聞きますが、正直、この主張は微妙ですね。「靖国参拝やめれば、日中関係が全てうまくいく」なんて誰も言ってないですし。


「内政干渉論」も微妙ですねえ。「内政干渉」ってのは「主権侵害」であり、「主権侵害」ってのは、圧力かけて国内政策を実際に変えさせることですし。中韓のやってることは、まだ批判・注文どまりだと思います。中国ではビジネスチャンスを日本企業がことごとく逃してるそうですけど。まあ、圧力が経済制裁までいったら内政干渉と見なしてもいいと思います。米国が日本に経済摩擦でやるような制裁までいったら。

でも、国際政治上の「内政干渉」、というか、「内政干渉しない」という国際政治上のルールは、厳密には、大国が小国に強制的に影響を与えることについてなんですよね。ときには武力を背景に。少なくとも、国連憲章の精神ではそうです。強国による弱小国の支配はダメよと。国連憲章の精神は、二つの世界大戦の反省からですし。まあ、冷戦時代は両陣営が内政干渉しまくりでしたけど。

で、国際政治のルール上NG(タテマエでは)の「内政干渉」を、大国に露骨にされちゃう小国なんかは、世界に向かって「内政干渉!」なんて言えるわけがない。そんなこと言える余裕や力があれば、「内政干渉」されないですから。

最近の国際政治で、国家が「内政干渉!」と叫ぶのはどういうときでしょう?ちょっと前は中国がよく言ってましたよね。北朝鮮も。独裁政権が人権問題などで、アメリカなどに「まともな批判」をされたとき。こういう反応って、その問題について「国際的に正当性のある」反論ができないからこそでしょう。中国はアメリカの貧困問題を批判し「そっちこそ人権軽視!」とやったこともありました。そりゃそうだという部分もありますが、苦し紛れのすりかえです。「おまえだって!誰々だって!」というのは内輪でのディベートではそれなりに有効かもしれませんが、「国際的に」説得力のある議論には絶対にならないと思います。

靖国問題での、日本国内の「内政干渉!」というのも、構図としては同じではないでしょうか。森本敏さんが朝生でも言っていたのですが、日本が靖国問題で「国際的に正当性のある」反論をするのは不可能でしょう。というか、中国共産党の言い分の中で、靖国参拝批判ほど、「国際的にまとも」な主張はあんまりないでしょう(笑)。それだから、こっちは「内政干渉!」としか主張できない。というか、この「内政干渉!」というのは日本国内向けでしょう。さすがに、たいした圧力かけられてないのに、独裁政権のように世界に向かって「内政干渉!」と叫ぶのはちょっと恥ずかしい。大国日本がそんなこと大真面目で言ったら、自分たちの外交力がヘボいということを宣言するようなもんですから。

というか、この程度の批判・注文を「内政干渉」とか言ってたら、北朝鮮その他の独裁政権を批判できなくなっちゃいますよ。ガンガン批判しましょうよ。私はリアリストじゃないんで、他国の人権問題その他の国内政策はガンガン批判すべきだと思ってますし。

まあ、小泉さんが高裁の判断に気を使って「私的参拝」を強調しているんで、「内政干渉」議論はもう古い論点になっちゃってると思いますけど。


靖国問題で譲歩したら他の問題でもズルズル譲歩してしまう、って議論もありますね。これも森本さんが言っていたのですが、他の問題なら、日本は「国際的に正当性のある」、というか、「国際的にたたかえる」主張が十分できるでしょう。遠慮のいらないまともな論争が可能です。ズルズル行くほど日本人は無能でないでしょう(対米外交を見てると不安にもなってきますが、中国相手なら全然余裕でしょう)。靖国問題の場合、日本の国論が激しく対立しちゃってますが、他の問題ではそこまで酷い状態ではないでしょうし。

靖国参拝のせいで、日本の国論が激しく二分しちゃって、効果的な対中外交が不可能になっている側面もあると思うます。というか、逆に、中国に対して変な遠慮が出ちゃうんですよね。だから小泉さんも謝罪の言葉出すわけですし。


中国にとって靖国は日本相手のカードでしかない、みたいな議論もあります。これはなかなか難しい。たしかにそういうところもあると思います。しかし、たとえそうでも、今日の国際政治は、国内世論と国際世論をオーディエンスに「タテマエの正当性」を競うようなものなので(イラク戦争前のアメリカvsフランスのように)、「ホンネ」がそうだから「タテマエ」は無視していいというわけにはいかないでしょう。

おまけに、中国は独裁ながらも、世論が力を持ってきていますのでなおさら。このへん難しいところなんですが、対日外交カードというより、中国共産党政府としては、自らの「正統性」のために、靖国は譲れないのかもしれません。抗日の歴史の問題もあるでしょうけど、「悪いのは一部の軍国主義者。他の日本人は中国人民と同じ被害者」のロジックで、中国国民を納得させたんだから、その判断の正当性が、共産党の正統性に関わる問題だったり。というか、日本の世論と違って、中国の世論は、この問題で、99%(?)一致してますし。こういう世論は逆に足かせにもなります。これで世論を裏切ると、まさに共産党政権の「正統性」の問題に繋がってくる。

だから、中国政府も苦しいんだと思います。靖国を「外交カード」として使うほどの余裕はないと思うんですよねえ。国内での「正統性」が完璧ならそういうことできるでしょうけど、ちょっとミスったらヤバイことになるかもしれませんし。中国はゴリゴリのリアリスト外交やるタイプですから、その路線では外交上、靖国にこだわるのは全然得にならないですもん。台湾問題とは全然違う。やっぱり、靖国問題は、外交カードというより、中国共産党にとっての「正統性」の問題だと思います。

国内での「正統性」、国際関係上の国益、この二つの間で苦しい。国益を取ったら、国内世論は99%アゲンストですし。「正統性」があやしい独裁政権としては、これはキツイ。靖国問題片付くまで、キツくて他の問題でも譲歩(=日本にとって得)できない。日本が国益追求するなら、相手が他の問題で譲歩しやすい環境をつくることも必要でしょう。

逆に日本の場合、国益を優先しても、アゲンストは多くても50%程度ですから、やりやすいはずなんですけどねえ。小泉さんは意味不明だから。何考えてるのかイマイチわからない。自分のイメージ戦略のツールとしてしか靖国を見ていないのか。それとも、もう少し戦略的にやっていて、日中の緊張を高め、日米関係をより緊密に、という狙いがあるのだろうか。ちょっと前までは、靖国をカードとして使う(=中国に高く売る)気があるかもと少しは思ったけど、もうそれはなさそうだし。まさか、外交問題になってるのに、外交上、なんの戦略も考えてない、なんてマヌケな話だったらほんとにこわい。リアリストじゃない私でもこわい。

韓国については、あまり心配してないんですよね。なんだかんだ言ってもお互い自由民主主義同士だし、民間レベルの交流を地道にやってけば、政治がゴタゴタしてても、大丈夫でしょうと。


あと、私が思うのは、靖国問題に関して、中国の国内事情に関する冷静な情報・議論があまりに欠けている、ということでしょうか。保守論壇は、中国政府・中国人をただただひたすら侮蔑・嘲笑するだけで、保守論題の傾向を知る以外、中国を知るためにはほとんど役に立ちません。一方の左の論壇の議論も、中国内部がどうなっているかという問題にはほとんど踏み込みませんし。どちらの情報も少々ナイーブすぎるような気がするんですよね(戦略上そうなんでしょうけど)。私自身は左というかリベラル系ですから、結論としては左の議論と基本的には近いんですけど。


追記:そーいえば、靖国問題に関しては、この二人が興味深いこと言ってましたね。

転向!? 石原慎太郎 渡辺恒雄


というか、ちらほらと書いてきたんですが、保守論壇には、中韓や日本の左派に対する憎悪を撒き散らすことをほどほどにしてほしいです。そういうのが「売れる」のでしょうけど、大衆の何かへの憎悪を煽るようなことは、本来、保守主義者こそが、一番嫌うべきことでしょう。そうやって(何かへの憎悪を煽り)大衆を煽動するのは左翼の専売特許であると。保守主義者はそんな下品なまねはしないと。子どもの言い訳、屁理屈のようなセコい正当化も、いいかげんほどほどにしてほしいです。ディベート対策もいいでしょうけど、そんなのばっかりじゃ、魂を揺さぶることは不可能です。

日本の心と知性を代表する保守論壇の方々には、他者への愛情や寛容の精神のあふれる言葉・文章で、靖国論・日本論を語ってほしいです。そういうのが、我々が誇る日本人の美徳でしょう。保守論壇こそがその心・美徳を継承し体現すべきでしょう。保守論壇が育てるべきなのは、憎しみにかられた日本人ではなく、他者への寛容と慈愛の心を持った日本人のはずでしょう。憎しみの心は日本人の文化でも伝統でも「誇り」でもない。寛容の精神こそが日本人の文化であり伝統であり「誇り」のはずでしょう。他者への憎悪を煽るのをやめ、日本への愛を語ってくれ。


リベラル派には、中国政府の善意をナイーブに信じさせるような議論はほどほどにしてほしい。本来、理念的には、日本のリベラル派は中国の一般ピーポーと連帯すべきでしょう。中国政府への批判的な眼差しは決して忘れてはならいと思います。これは、日本人のためというより、中国人のために。日本の国益のためではなく、中国人の幸せのために。日本の国益のために、中国政府と信頼関係を結び付き合うのは、日本のリアリストにまかせちゃっていいのではないでしょうか。なんだかんだいっても、自民党にも民主党にも経済界にも知識人にも、リアリストはたくさんいるでしょう。

リアリストはもっともっと頑張れと。リアリストが不甲斐無いから、リベラル派がリアリストみたいな物言いをしなきゃならない状況になっているんで。リアリストはなりを潜めている場合じゃないですよ。

そして、リベラル派には、靖国参拝を歓迎する普通の人びとの気持ちを、もう少し考えてあげてほしい。その人たちの心にも響くような言説を作り上げてほしい。これはどちらにも言えることですが、相手を「論破」するだけじゃたいして意味がない。内輪だけで通用する議論を、違う考えを持つ人に披露してもほとんど効果はないと思います。

私としては、もうディベートは飽きたんで、論壇にはディベート的な主張・議論はほどほどにして、分析・研究を見せてほしいな、と勝手に他人事のようなこと思ってたりもします。右の議論も左の議論もナショナリスティックすぎかなと(私もへタレ・ナショナリストなんで人のこと言えませんけど・・・)。同じようなのばっかりで、読まされる方としては、ガス抜きにはなっても、あまり勉強にならなかったり。まあ、論壇ってのはそういうもんなんでしょうけど。こういう姿勢は、あまりよくないのかもしれませんけど、やっぱり、たまには他人事のように物事眺めるのも大切かな、と思ったりしてます。




ナベツネ on NYT  ヤスクニとソフトパワー

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by mudaidesu | 2005-10-27 22:50 | ニッポン


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