リアリストのリアリズム  イラク戦争反対


ダブスタ&ゼロサム」でリアリズム国際関係理論について触れましたが、また、ちょっとリアリズムとリアリストについて。リアリストのイラク戦争への考え方についてもちょっとだけ。というか、リアリストならイラク戦争反対に決まってますよ、と。

リアリズムの理論家ってユダヤ系ばかりなんだよね。名前が。初期の理論家には、ドイツからアメリカに逃げてきた人もいた。有名なのが、ハンス・モーゲンソ―(Hans Morgenthau)。この人は、大御所中の大御所。リアリズム国際関係理論の生みの親。

やっぱ、ユダヤ人としての経験が影響与えてんのかなあと。リアリストの世界観に。リアリズムは防御の思想なのかなと。世の中あまくねーぜ、と。

理論上は、どんな国家でも国家の生存のために合理的判断するので、国家の体制についての善悪の判断はしない。そして、モラルなんて考慮されてない。けど、初期のリアリスト、というか、古典派のリアリストには、それでも「モラルが大切」みたいな信念があったみたい。モーゲンソ―の論文にそういうのがあった。「善」を守るためにこそ、ナイーブな思考を止めて、冷徹にいくべし、みたいな。そーいうことを熱く語ってる異色の論文があって驚いた。古典派と違って、ネオリアリストは、そういうのもふっとばしちゃてるような気もする。


リアリズム、とくにネオリアリズムの議論ってめちゃくちゃおもしろい。とってもシンプルで。僕自身は、リアリストじゃないし、リアリストを批判する側なんだけど。それでも、おもしろい。

ジョン・マーシュマイヤー(John Mearsheimer) というネオリアリストがとくに好き。(追記:なんか、調べてみたら、日本語読みはミアシャイマーみたいね。というか、どーみても、最後がマイヤーにならんよね。いまだに英語がちゃんと発音できない、というか、テキトーに発音して、そのまま間違えて記憶するってのは、僕の中ではよくあることです。)

この人の名前もユダヤ系ですね。この人は古典派のモーゲンソーやらよりはちょっとタカ派的。offensive realismとか呼ばれてて、過去においての軍事力の重要性みたいのを語っちゃったり。けど、この人の議論はとてもシンプルでいいんですよ。(いつも、相棒のStephen Waltさんと書いてるけど。)好き嫌いは別にして文章がめちゃくちゃシンプルでいい。論理も超シンプル。英語の文章なんてどういうのがいいかさっぱりわかりませんが、この人の文章だけはすごいと思った。


で、イラク戦争ですが、この人はイラク戦争反対でした。

イラクには、封じ込め政策で十分。封じ込め政策は過去にもうまくいったし、将来もうまくいくと。フセイン相手でもそれで十分と。フセインはイカれた奴じゃない。ちゃんと封じ込め=抑止すれば大丈夫。たとえ、大量破壊兵器を持ったとしても、アメリカや同盟国を攻撃・脅迫することはない。アル・カイーダ対策の方が大事で、イラクなんかにかまってらんない。おまけに、イラク侵攻なんてやっちまったたら、後始末がちょー大変。先が読めなすぎ、んなリスクはいらん。おまけに、余計なことすると、北朝鮮とかが核開発加速しちゃうかもだし。秩序を壊すなと。つか、中東和平を先やれよ。みたいなかんじ。

Keeping Saddam in a Box  2/2 2003 The Newyork Times
An unnecessary war  Foreign Policy Jan/Feb 2003
Realism versus Neo-conservatism 2005 5月 (タイトル通り、リアリズムvsネオコン)
wilipedia John Mearsheimer


ネオリアリストの大御所のケネス・ワルツ(Kenneth Waltz、ユダヤ系ですね)も、イラクはいままでどおりの封じ込めでよい、と2003年2月のインタビューで言ってました。よーするに、ネオリアリストは国家は理性的で自己の生存のために合理的判断をする、と考えるので、フセインのイラクが、自分の国を危うくするようなこと(アメリカに対する先制攻撃、テロリストに武器供与など)はしない、と。イカれた奴があんな地域であんなに何十年も権力握れないって、とか。

まあ、ある意味、フセインを信じているというかなんというか(金正日も)。この人は、「ならず者国家」みたいな概念が嫌いなようです。国家にならず者もへったくれもない。「ならず者国家」みたいな発想はリベラルのナイーブちゃんの自己満足にすぎない。国家はみんな国家だ。みたいな。結局、フセインは国を滅ぼしたんですが。

Conversation with Kenneth N. Waltz
wikipedia Kenneth Waltz



リアリストの大御所中の大御所のジョージ・ケナン(George Kennan)もそうでした。ケナンは、冷戦勃発時のアメリカの外交戦略の理論的基礎を築いた人です。当時、ソ連を封じ込めろと主張しました。いわゆる「封じ込め政策」(containment)の生みの親。(古典派なんで、ソ連に対しての、アメリカの正しさを信じた上ででしょう。)

リアリストのケナンはクリントン政権のリベラル的外交(人権重視、人道的介入など)を批判した。ケナンは、アメリカ・NATOのコソボ介入やNATO拡大にも反対したそうで。ロシアとの関係を悪化させちゃダメだから。(セルビアとロシアは宗教上近いんで親密。だから、欧米はコソボ介入時、安保理決議を目指さなかった。)当然、イラク戦争にも反対。アル・カイーダ対策の方が大事だろと。アル・カイーダとイラクが繋がってるなんて話はアテにならんぞ、と。というか、マジで見通し不明すぎてヤバイって。戦争の目的がコロコロ変わって、ズルズルと続けちゃう危険があるぞ、とか。ケナンは、今年、101歳で亡くなりました。

George Kennan Speaks Out About Iraq
obituary The Economist
obituary The Washingtonpost
Kennan's Foreign Affairs articles
wikipedia George Kennan


リアリストの戦争反対は、「反戦」ではなく、簡単に言っちゃえば、国際の秩序・バランス=国益、を重視するから。たとえば、リアリストは台湾独立には反対だろう。台湾が民主主義、中国が権威主義ってのは関係ない。国家の中身はどうでもいい。国家体制についての善悪の判断は排除する。

僕は、へタレ・リベラルなんで、心情的にはもちろん台湾独立。というか、台湾の人たちで好きなように決めて。だけど、さすがに予測不可能なんで、ごめんよ台湾、中国がもうちょいマシな国になるまで待っておくれ、です。しかしながら、台湾の独立志向の方々は、日本の右派(親台派)に気を使っちゃってほんとかわいそうだと思う。国民党独裁政権と闘ってきたリベラル派が多かったりするだろうに。というか、民進党って名前のとおり一応基本は進歩派だよね。国内政策ではいろいろごちゃごちゃしてるようだけど(対中国についても一枚岩じゃないけど)。というか、あんまり詳しくないんだけど。


というか、日米のネオコン的なるもののせいで、リアリストが輝いて見えてします今日この頃ですよ。前は、ったく、冷てー議論してんな、コイツラ、とか思ってたのに・・・。

日本のリアリストで、公にアメリカのイラク戦争に反対したのは岡本行夫さんくらい?(岡本さんは、自衛隊派遣はしょうがない、というスタンスでしたが。)よく知らんですけど。森本敏さんは、「アメリカはおかしい」とはいいつつも、この人は自分の意見=日本政府の意見、みたいな意識で語るから、「アメリカはおかしいけど、日本はサポートしないわけにはいかない」みたなノリだった?


ところで、リアリストはイラク戦争反対だけど、実は、ベトナム戦争も反対だった。↑のマーシュマイヤー(ミアシャイマー)の「リアリズムvsネオコン」によると、リアリストでベトナム戦争に反対しなかったのはキッシンジャーだけだそう。ベトナム戦争の話になると、ニクソンのイメージが悪いですが、そもそも、ベトナムに突っ込んでいったのは民主党のリベラル系の方々。後始末をリアリスト系のニクソンがやってた(大ボケして、戦争エスカレートさせたりもしましたけど)。ニクソンの訪中なんかは、まさに、リアリストの真骨頂でしょう。

そして、マーシュマイヤー(ミアシャイマー)によると、ベトナムと同じように、キッシンジャー以外、ほとんどすべて(allmost all)のリアリストはイラク戦争に反対だと。キッシンジャーはブッシュ家とのお付き合い上、反対を言わなかったのでは?んなわけないですかねえ。でも、パパブッシュも内心では反対だったでしょうしねえ。

この「リアリズムvsネオコン」のノリは、基本的には、従来型の、ネオコン登場以前の、リアリストのリベラル批判のノリとほとんど同じ。これを読むと、あらためて、ネオコンさんってのはリベラルの突然変異なんだなあ、と思わされます。まさに異端ですね。アメリカの知的潮流の中では、すごく小さい勢力なのに、政権乗っ取っちゃった。

この論文によると、ネオコンは民主主義の魅力を過大評価して、ナショナリズムを無視していると。ネオコンは、民主主義を持ってきゃ、みんな喜ぶだろうみたいな発想。モーゲンソーなどのリアリストは、逆で、ナショナリズムの力をちゃんと考慮しているからこそ、他人の社会に突っ込んでいくな、と主張する。

これは、ベトナム戦争についてもいえる。アメリカが直面したのは地元民のナショナリズムだった。冷戦時代のアメリカは、反米=共産主義と短絡に考えていて、ナショナリズムを考慮に入れてなかったとも言われますね。イランのモサディクなんてまさにそう。ソ連がアフガニスタンで経験したのもそれですな。


で、リアリストのイラク戦争反対論をあらためてザラっとチェックしてみると、理性的なんだけど、やっぱり弱いなあ、と。やっぱり「不安を煽る」(=もし○○だったらどーすんだ!系)という相手の手法にはなかなか勝てないだろうなあと。「勝つ」とは、より多くの人をその気にさせるということね。世の中うまく行きませんねえ。


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by mudaidesu | 2005-11-05 00:44 | 世界


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