イラク人質問題 5  雑感


ところで、人質バッシングの一番の原因は「家族の言動」との見方があったりする。家族の言動が酷かったから、人質まで叩かれたと。というか、そういうことを言う人がたくさんいた。

これは当時の現象の一部しか捉えていない。日本人が拘束されたというニュース速報が出た直後から、ネット上では酷いバッシングが起こっていた。叩く理由は「サヨ、朝日、反日、自作自演」など。自作自演の根拠の一つとされたあの「ヒミツの大計画」が登場したのはニュース速報から一時間後くらいらしい。

そして、読売新聞や産経新聞はネットを観察していたのかどうなのかわからないけど、翌朝(だよね?)から「人質本人」叩きをはじめた。そして連日、社説、一面コラム、社会面、識者のオピオン・コラム等々で「人質本人」叩きを展開。読売新聞なんて、一日に四ヶ所で叩いてたこともあった。

読売や産経の人質叩きの内容は、「退避勧告が出ているところに行くなんてケシカラン」的なのが多かった。産経には、自作自演をほのめかす文章もあった。一面コラムで、犯人たちの声明文が日本の左翼っぽいという話を聞いて「なるほどと膝を打った」、とか書きながら。政治家たちも「人質本人」を批判していた。


たしかに、「家族の言動」にムカついた人もいただろう。しかし、あくまでも「家族」叩きは「人質本人」叩きのおまけだった。家族がどうであろうと、「人質本人」たちは叩かれていた。大手新聞が連日あんなに叩いてたし、おまけに週刊誌でも叩いてたんだから。

僕としては、一般人がムカつきバッシング(ネット含む)するのは嫌悪するけど、ある意味、仕方がないとまで思ってる。しかし、あのバッシングが異様で、非常にコワイと思ったのは大手メディア、政治家、知識人総出で行われたから。


僕が注目したのはネット外(大手メディアや政治家など)がネットの流れに「乗った」こと。肯定はしないけど、一般人がある種の感情(差別感情など)を抱くのは仕方がないし、被害者・家族の言動にイラつく人は常に存在する。残念ながら。だからポイントは、いわゆる「俗情」に大手メディアや政治家や知識人が「乗る(媚びる)」かどうか。「乗る(媚びる)」ことによってその「情」が増幅される。これはやめてくれと思った。「ナチュラル・ボーン・キラーズ vs ノーと言える中国」や「靖国問題について」とかでそういうことちょっと書いてきたけど。


ネット上で「サヨ叩き」の文脈(建国義勇軍事件のようにお約束のネタとして「自作自演」指摘含む)でバッシングが起きることは、この事件が報道された瞬間に予想できた。しかし、ネット外では、政治家・メディアは別の文脈で議論を展開すると僕は予想した。本音はどうあれ、後のパウエル発言のように人質本人たちには敬意を示しながらも、自衛隊撤退はできないと冷静に主張するだろうと僕は予想してた。というか、そうすべきだった。

しかし、ネット外もネットの流れに乗った。ほんとは別々の動きかもしれないが、多少は影響与えたと思う。というか、はじめてネットが本格的にネット外の論調に大きな影響を与えた記念すべき出来事だと僕は思ってる。ネットとネット外がシンクロし、お互いに正当性を与えながらバッシングが増幅していったと思ってる。

もちろん、大手メディアや政治家や知識人は本音でムカついて冷静さを失った可能性もある。

でも、やっぱり、「人質への敬意を示すが撤退は無理」という議論では弱い。だから、「人質は無謀で迷惑で非難されるべき。ただでさえ撤退は無理、こんな人間のためにはなおさら無理」という議論(政府責任回避にも使えるし)で行こうと戦略的に考えたのではないかと。江川紹子がなげくように「冷たくなってしまった」のではなく、あくまで意図的に。冷静さを失って冷たくなって変節した(ここ参照)のではなく、ある目的を持って叩いたのではと。国策を守るという目的のために。

ようするに、「こんなダメな連中のために国策を犠牲にするわけにはいかない」ということを世間に説得しようとした。しかし、もし被害者が読売・産経等から見て素晴らしい人間だったらどうするのか?高遠さんだって、一月には産経から見てすばらしい人間だったんだし(ここ)。この「ダメな連中」戦略は使えないよな(ムリやり叩いたかもしれないけど)。だから、被害者については少し触れる程度にして、被害者の質に関係なく、自衛隊が撤退できない理由を主張するのに集中すべきだった。それが、責任あるメディアのとるべき姿勢だった。

まあ、実際としては、国策を危険にさらすような被害者が、読売・産経や文句言ってた政治家・知識人にとって、素晴らしい人間に映ることはあまりないだろうから心配は無用か。んーん、しかし読売・産経の関係者が被害者だったらどうなるのだろうか(このときのように)?おそらく、被害者については「立派・かわいそう」と簡単に触れる程度で、自衛隊が撤退できない理由に集中しただろう。なら、あの三人についてもそうしろよ。


ところで、被害者やその家族が大手メディアに連日叩かれたことがかつてあっただろうか?あまりに異様な光景だった。まさに「俗情に媚びるメディア」の典型。あいつらを餌食にしてやろう、という社会の欲望を満たす役割を率先してやった。ありゃ、ひでぇ。ちょー、ひでぇ。
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by mudaidesu | 2005-12-05 00:27 | イラク人質事件


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