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イラク人質問題 10  自己責任 ①


で、「自己責任!自己責任!」についてだけど、簡単に言っちゃえば、あのとき人質たちが命の危機を被ったことで<自己責任>は消費された。それ以上、さらに責任が生じるはずがないと思う。そもそも、「責任」なんて計算できるわけじゃないし、誰の責任がいかほどかなんてすっきり示せるわけもない。裁判でもやるならまだしも。

「自己責任!自己責任!」ってのは、自己の決定においての、自己の責任においての行動なら、それにともなうリスクを被れって話だろう。だから、連中は命の危機を<自分>で被った。リスクを負うも何も、拘束・監禁・死の危険の三点セットを実際に経験した。自分でリスクを負うだけじゃなく、自分でリスクも被った。自分の行動のせいで、自分たちが危険な目に会った。それで終わりでしょ。責任は自分で取った。


これで終わりのはずなのに、<責任>という概念が、なんかインフレ起こしたというかなんというか、なんでもかんでも連中の責任にしたがる空気があった。どこまでが連中の責任なんだよ!と思った。


自衛隊撤退要求も連中の責任かよ!政府が使った金もかよ!これも結果?自分のせいで火事になったら、その結果の消防代まで払うのかよ?警察や消防の調査代も?どこまでが責任?どこまでが被るべきリスク?どこまでが連中の行動による結果?もしかして、バッシングも被るべきリスク?もし、日本に帰ってきて、殺されちゃったら?それも自己責任?自分で始末つけなきゃならない?

どこで線を引くん?

三点セットのところで終わりだと思う。



なんで家族が叩かれるのか?人質の自己責任なら、家族は関係ないだろう。叩くなら人質だけにしとけよ。まさか、家族が叩かれることまで、人質の自己責任なのだろうか。自己の行動が引き起こした結果ということで。家族が叩かれることまで引き受けろ?右翼さんたちがデッカイ車で、家族の職場まで挨拶に訪れたそうだが、それも仕方がないのか?人質の自己責任なのか?

「国や国民に迷惑かけた!」って言うなら、「迷惑かけた」のは人質本人なんだから、叩くのは人質だけにしとけよ。家族まで叩くな。家族はただ自分の意見を主張しただけなんだから。迷惑かけてない。家族の発言が気に入らないならスルーすればいいだけ。人質の自己責任なら、家族は謝る必要もない。人質が勝手に自己決定してやったんだから、家族に責任なんてないだろう。


イラク人質問題 5  雑感」でも書いたけど、「家族の言動のせいで人質はバッシングされた」という言説があった。これはテレビで「知識人」(?)も言っていた。「人質問題 5」でも書いたけど、これは嘘。こういう言説を吐いた人は、人質バッシングを後ろめたく思っていたから、言い訳として使ったにすぎないと思う。いかに、人質バッシングがおかしいか自覚してるからこそだと思う。家族の言動なら「道徳論」でごまかせると思ったのだろう。

もちろん、「イラク人質問題 1  家族」 で触れたように、家族が何を言おうと勝手。しかも、「犯罪被害者」である愛する家族の一員が「生きたまま焼き殺される」かもしれないという極限の状況にいた一般人の言動なんだから、とやかく言う神経が信じられない。また言うけど、気に入らなかったらスルーしろよ。家族のためを思うからこそ、戦略的にどうだったかという議論はありえるが。

けど、100億歩譲る。家族の言動が酷かったとする。

なら、叩くのは家族だけにしとけよ

自己責任なら、人質は自己の行動だけに責任があるんであって、家族がどんなに酷かろうと、人質を叩くのは筋違いだろう。


「自己責任自己責任」って言葉が踊ってる割には、連帯責任求めたり、「自己」じゃない家族に謝罪求めたり、「自己」じゃない家族の言動の責任まで背負わされたり、もうめちゃくちゃ。叩く対象も叩く理由もめちゃくちゃ。人質が叩かれるのは家族のせい。家族が叩かれるのは人質のせい。自己責任自己責任。わけわからない。両方気にイラねーってだけじゃん。



結局のところ「自己責任」うんぬん言ってる人(特に、政治家・メディア・識者)は何が言いたかったのだろうか。

① 危険な地域に行くな。特に政府が支持した戦争が行われてるところには行くな。
② 行くなら、あらゆることを想定し、できるかぎりの準備をしてけ。
③ 起こったことの後始末は自分でしろ。


結局①を言いたいだけだったのか?②、③はいくら徹底しても、何か起これば本人にはどうしようもないわけで。もし、流れ弾や爆発の巻き添えで死んだとしても、本人は当然覚悟の上だろう。けど、その後どうすんだ?遺体をどうするか、調査をどうするかとかで結局、政府の手を煩わせることになるんだろうし。自分だけで全てを始末するのは不可能なわけで。

あのときの「自己責任!のノリ」を結果的に貫徹するには①しか方法はないわけで。


死んじゃった人に、火事起こしちゃった人に、③のように「自分でケツふけよ」なんて言っても意味ない。「どこまでふけばいいんだよ」って話で、直接の被害(ヤケド、拘束、監禁、死の危険、死など)が自分に降りかかることによって、責任はとってる。とするしかない。↑の「三点セット」で終わり、にするしかない。

ところで、解放前から、「自己責任」とは他人のせいにしないこと、みたいな道徳的っぽい言説もあったが、人質たちは監禁されてて何も言ってなかったから、この文脈で人質を「自己責任!」と言って責めるのには不適切で論外。たとえ家族が他人のせいにしたとしても、叩くのは家族だけにしとけ。人質の自己責任とはまったく関係ない。


で、人間、自分のケツを全部ふけたら世話ない。これって、保守派が本来言ってたことのはず。人間は個人だけじゃ生きられない。共同体があってこそだ。自己決定・自己責任なんて幻想にすぎない、とかなんとか言ってたのが保守派のはず。なに、「自己責任!自己責任!」とか言って個人をバッシングしてんだよ。めちゃくちゃじゃん。

まあ、使えない奴は切り捨てちゃえ的な新自由主義的風潮がむき出しになったとも言えるけど。新自由主義にシンパシーを抱いてるような保守派の方々が暴走しちゃったと。んーん、でもやはり、それよりは「非国民認定」メンタリティーの方がむき出しだったな。



んで、①をいくら言っても、行く人は行くわけで。行くのは自由なわけで。となると、もうどうしようもないわけで。

今回、一部のメディアが退避勧告持ち出して自己責任うんぬん言ってたのにはすごい違和感を感じた(「イラク人質問題 4  江川紹子 & ネタ」。もし、メディアが①(行くな)を言おうとしていたなら、メディアとしては自殺行為。メディアが「行っちゃいけません」なんてありえないでしょう。そのありえないことが起こった。宮台も激怒するわけだ(「イラク人質問題 8  動揺」)。


不謹慎だが、プッと吹き出してしまったのは木村太郎さん。

木村さんが、人質三人に対して、政府の退避勧告持ち出してああだこうだ言ってた。で、言い終わったらすぐ安藤さんが、「次はバグダッドからの中継です」とか言って、バグダッドにいるフリージャーナリスト(当然、退避勧告無視)に繋いだ。おまけに、このジャーナリスト、綿井健陽さんよりもはるかに反米的な人だったのがまたスパイス効いてた。当然、木村さんとは正反対なわけで。

というか、なんなんよ?これって?大金持ちの大手メディアは、退避勧告を無視したフリーのジャーナリストを使っといて、同時に、退避勧告持ち出して、被害者を叩くって。わけわからなすぎ。ほんとに、政府広報と化してた。本人たちも矛盾は当然わかってただろうけど、政府を守るためになりふりかまっちゃいられねえ、って感じだったのかな。



ようするに、余程ベタな人(結構多いんだな、これが)以外、人質本人も家族たちも叩かれるほど悪いことなんてしてないってことは、みんなわかってたんだと思う。そもそも被害者と被害者家族だし。

一般人は、もう「人質も家族も、ムカツクから叩きたい」。ただそれだけ。(何度もバッシングは情緒的なものだからしょうがないと書いてるんだけど。)メディアや知識人はムカついたのと、国策擁護の戦略と両方。「自己責任自己責任」ってのは、お!自分の感情を正当化できるぞ、とか、お!叩くのに都合のいい言葉めっけ!ってな話。一般人は、お!下品に叩くより、これでもっともらしいこと言えるぞ、と思い、政府を守りたい人たちは、お!政府責任回避に使えるぞ、と思っただけ。
 
ただ、その余程ベタな人が、実はたくさんいたのが問題、というか、その事実を真剣に受け止めなければならないと思う。ファシズム的なものの担い手になってしまう善意の人たち。




ニュース


スーダン外務省は30日、バグダッドの同国大使館閉鎖を発表した。ロイター通信などが伝えた。「イラク・アルカイダ機構」が29日、同大使館員ら5人を拉致したとして「スーダンが48時間以内に外交使節をイラクから撤退しなければ殺害する」との声明を出しており、これを受けたとみられている。

同機構はイラク政治プロセスに対するアラブ諸国の関与に反発しており、これまでもエジプトやアルジェリアの外交官を拉致、殺害したとの声明を出している。

スーダン、バグダッド大使館を閉鎖 館員拉致で


スーダン政府が要求に従い、人質たちは解放されたよう。

Sudanese hostages freed in Iraq Aljazeera


こんな話も。

Italian peace activist freed after abduction in Gaza
Lebanese hostage released in Iraq
German captives freed in Yemen
ガザで日本人2人保護 自治政府警察当局
Five Italians held hostage in Yemen

全部に触れてたらキリない・・・。
by mudaidesu | 2006-01-03 22:42 | イラク人質事件


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