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イラク人質問題 11  自己責任 ②


大晦日の朝生の録画を見た。「靖国問題について」で書いたことと、村田晃嗣さん(親米リアリスト)の発言が似てて驚いた・・・というのは嘘。正しいとかじゃなくて、意識してたし。村田さんをじゃなくて、リアリズムを。自分はリアリストじゃないと言いながらも、わざとリアリストっぽい語り口を織り交ぜた。「リアリズム」に関するエントリー(「ダブスタ&ゼロサム」)の続きでもあったし。普段は内向きだけど、珍しく外に向けて書いたし。その割には長くなっちゃって不親切だったけど。

というか、ここんとこ、朝生は「正論」「諸君!」系(「will」でもいいけど。笑)の論者をスルーしてるな。この前、八木秀次さんが出てたけど、アジア関係の話題じゃ勝谷誠彦さんあたりでお茶を濁してる。まあ、現実的な話するためにはしかたないけど。

ちなみに、小泉さんには「アジアで孤立戦略」があると僕は普通に思ってたんですが、森本さんも「もうわからない。アジア外交を壊してるだけ」みたいなこと言って首かしげてたし、videonews.comによると、最近は小泉さん「愉快犯」説ってのが有力なようで・・・。マジですか・・・。



朝生からもう一つ。勝谷さんが、「イラクで日本人が5人死んでいる。この人たちは日本が自衛隊を派遣しなかったら死ななくてすんだかもしれない」と言っていた。僕としては、それは香田さんだけじゃないかなとも思ったけど。

本題に入る前にもう一言。勝谷さんは、最初の三人が人質になったとき、ネットで三人や家族を叩いてた。ネット上のバッシングを支える役割も果たした・・・とそのときは思ったけど、その後のメディアその他があまりに酷かったんで、彼の日記を今読んだらたいしたことなかった・・・。僕の感覚も麻痺しちゃったのかな。

当時の朝生で、イラク人質問題やったけど、叩き派は森本敏さんしかいなかった。勝谷さんはほとんど黙ってた(師匠の橋田さんが、あの三人に優しかったからかな)。他はみんな、ありゃひでぇ、と思ってた人ばかりだった。自民党の山本一太さんもいて、立場上、多少は叩き派を擁護していたが、本音では、バッシングはひでぇ、だっただろう。

森本さんは、人質バッシングの理論的支柱になるような文章を産経に寄稿したので叩かれてしまったが、この人は「やっちまった」だけなのではないか(笑)。この人は優しい人だと思う。朝生でも、弁解せずに辛そうにだまってたし。許してあげたい(笑)。というか、国際関係(または世界政治)学の先生として、ああいう人たちを否定するなんて、絶対やっちゃいけないこと。連中のような心情を持った人間を育てるのが役割でしょう。
 

で、本題。勝谷さんの「この人たちは日本が自衛隊を派遣しなかったら、死ななくてすんだかもしれない」発言に関連して。

一応、「イラク人質問題 10」で、「拘束・監禁・死の危険の三点セット」は連中の自己責任、ということにした。三点セットは自己責任で、その後自衛隊撤退どうたらこうたらの責任やら、家族がどうしたこうしたとか、金の話とか、バッシングを被ることとかは、連中の自己責任とは関係ないだろうと。

しかし、それはあくまで、「自己責任!自己責任!」の文脈にだいぶ譲ったところで考えたらの話。話をスッキリさせるために、あえて戦線を後退させて考えたらの話。

実際のところ、その「三点セット」は純粋に連中の100%自己責任なのだろうか?


あの三人が拘束された理由ってなんだろう。いろいろあると思う。そりゃ、現地に自分の意志で行ったことで当然連中の責任はあるけど、「イラク人質問題 10」でも言ったように責任なんてすっきり計算できるわけないし。

とりあえず、第一に犯人たちの「悪意」がある(ファルージャ攻撃を止めるためにしょうがなかったって話もあるし、そんなに悪い人たちじゃなかったようだけど、とりあえず、話をすっきりさせるために悪意のある犯人としておく)。一番責任あるのはこの人たち。(高遠さんは、この人たちに対して「バカなことやってんじゃねーよ」と直接言ってたらしい。)なんたって加害者なんだから。そして、人質たちは被害者。


で、連中はミスしたんだろうか。無茶もしたんだろうか。ミスや無茶の責任もあるんだろうか。拘束直後から、メディアは「無謀」だの「軽率」だの「無責任」だのなんだの書いて叩いたけど。でも、江川さんもしつこく言ってたけど、んなことわかったわけないじゃん(「イラク人質問題 4」)。実際、何があったのかも全然わからない状況で、何テキトーなこと言ってんだよと。大手メディアなんて、イラクから引き上げちゃってたくせして。現地のことなんか全然わかってなかったくせに。

三人はダメだけど、橋田さんはOKってのも意味不明だった。橋田さんについて何もわかってないときから、橋田さんはOKって・・・。橋田さんの方がはるかに無茶だったかもしれないのに。ようするに、どっちがムカツクかってだけ。一部のメディア的には、どっちが国家にとって邪魔か。勝手に死んじまって国策の邪魔にならないか、人質になって「迷惑」かけるか。または、家族がムカツクかどうか。基準はそっちなくせに、なんもわからん時点で本人たちについて「こっちは無謀。こっちはOK」ってすごすぎる。まさに、無茶。


高遠さんなんて、数ヶ月イラクでやってたんだから、イラクのミクロな状況について一番詳しい日本人の一人だったはず。そりゃ、結果的に、拘束されちゃったんだから、ミスはあったのかもしれないが、あの時点で素人がギャーギャー言うのは無茶すぎ。いまだって、さっぱりわからない。



あと、連中は流れ弾や爆発に巻き込まれるくらいは覚悟してただろうけど、拘束・人質ってのは新たな展開だった。突然、拘束事件が続発するようになったわけで、それに対する準備をするなんてムリだっただろう。あの三人は最初の方(第二弾)だったし。まさか、あんなに続発するなんてみんな予想してなかった。連中はパラダイム転換に立ち会ってしまったと思う。無茶って、パラダイム転換をやった加害者たちの方が無茶だって。

19世紀から、赤十字などは戦場で人道活動をやってきたし、ジャーナリストは報道してきたが、心配すべきは流れ弾で、戦闘に巻き込まれることだった。ついに、外国人であるだけで、国際社会に対しての人質として使われることが現実になってしまった。メディアの発達で、戦争はお茶の間のイベントにもなってきた。メディアを使って、遠くにいる国際社会の人間にまで要求を突きつけてくる。



なぜ彼らが拘束されたのか、には他の要素もある。まずはイラクがめちゃくちゃだから。なぜめちゃくちゃなのか。いろんなのに責任がある。アメリカ、フセイン、イラク政府、イラク国民、国際社会などなど。そして、最も重要なポイントは米軍のファルージャ攻撃にあると言われてた。拘束・人質の直接の引き金はファルージャ攻撃だと。


↑で、自衛隊撤退どうたらこうたらは、人質たちの自己責任とは関係ないって話をしたが、自衛隊撤退どうたらこうたらについて、日本政府の責任はどうだろう。「人質問題 10」で、とりあえず三点セットは連中の自己責任とムリヤリした(↑でそうとも言えないとしたけども)。自己決定した上での行動によって被ったということで。

これは↑の勝谷発言に関連することだけど、日本政府も自己決定で自衛隊派遣をした。日本政府も自主的に決めて行動した。その結果起きたことについてはどうなん?どこまでが政府の責任なんだろうか。人質連中の「自己責任」をあんなにインフレさせたんだから、日本政府の自己責任もインフレさせてもいいかもしれない。ま、そんなことはしないけど。


本気だったかどうかはわからんけど、犯人グループは日本政府に要求を出した。自衛隊派遣によって、犯人側にとって被害者が余計に使える存在になった。自衛隊派遣によって、被害者の重みがガ-ンと上がった。「撤退しろ」という要求を出せるようになった。

政府に自衛隊撤退要求が出る人質事件になったのだがら、自衛隊派遣(政府の自己決定)と事件(特に人質・要求の部分)の因果関係はかなりあるでしょう。日本政府に対して要求が出てるんだし、その要求は日本政府の自己決定と関係ある。だから、日本政府も責任主体の中心になったわけだ。こっからは日本政府の責任の問題にもなる。


あの人質作戦は、みんな「なるほどねえ。こういう戦略できたか」と思う程度には、合理性はあったと思う。「なんで?日本人が?関係ないじゃん?」と、日本人が人質にされたのを不可解だと思った人なんていないだろう。日本人が人質になって、犯人側が日本政府に要求を出してきたことは十分理解可能だった。自衛隊派遣、日本政府の自己決定が無関係だと思った人はいないはず。

「なぜ拘束されて、人質事件になったと思いますか?」と聞かれたら、「日本政府がファルージャ攻撃してたアメリカに協力して、自衛隊を派遣してるからじゃないですか」みたいに答えるのは全然不思議じゃなかった。というか、みんなそう思ってたでしょ。テレビに出てた専門家もみんなそう言っていた。

これをよく理解してるからこそ、政治家やメディアや知識人は「人質自己責任論」でいった。バッシングに乗って、さらに煽った。政府の責任回避のために。国策擁護のために。世間が「自己責任論」を大真面目にとってくれてほんとにホッとしただろう。



とにかく、あの問題で何が誰の責任なんて簡単に言えるもんじゃない。何がどうなってこうなったということを理解しようとすることが大事。ほんとに複雑だった。パラダイム転換まであった。「雪山遭難」とかに例えるのは思考停止の極みだったと思う。そもそも、自然災害じゃないし。すべてに人が関わってる。




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by mudaidesu | 2006-01-09 18:02 | イラク人質事件


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