イラク人質問題 13  パウエル発言


パウエル発言に関して、こんな記事があった。
 
「パウエル発言」の引用されない部分 自衛隊も「誇り」と称賛

イラクの武装勢力に日本人が拘束された事件で、人質の自己責任を問う声に「不当な被害者たたきだ」との反撃が活発化している。その有力な論拠の一つが、イラク戦争を主導したパウエル米国務長官でさえ人質を称賛しているとする発言だ。パウエル長官の真意はいったいどこにあったのか。

これはTBSテレビが4月中旬、パウエル国務長官に単独インタビューした際の発言に基づいている。長官が人質3人の解放を喜び、「イラクの人々のために、危険を冒して、現地入りする市民がいることを日本は誇りに思うべきだ」と語ったと伝えられた。

この発言部分が、内外のメディアに「自己責任」への反論として引用されている。20日付のルモンド紙は、パウエル長官が人質に対して、「危険を冒す人がいなければ社会は進歩しない」と慰めの言葉を贈ったことを紹介している。ニューヨーク・タイムズ紙も、ほぼ同様の部分を引用している(25、26日合併号のヘラルド・トリビューン紙に転載)。

米国務省が公表しているインタビューの一問一答で確認してみると、確かに「日本人は自ら行動した国民がいることを誇りに思うべきだ」と述べている。

ところが、パウエル長官は続いて「また、イラクに自衛隊を派遣したことも、誇りに思うべきである」と、実は自衛隊を並列において称賛していた。ルモンド、ニューヨーク・タイムズ、朝日新聞のコラムなどでも、この部分はすっかり省略されている。

米国では、海外の危険地域で献身的なボランティア活動をした人々に対する尊敬の念が強い。同時に自国の軍に対する敬意と尊敬はそれ以上である。とりわけ、ブッシュ政権の閣僚たちは、自衛隊のイラク派遣に対しては何度も高い評価を繰り返し述べている。

ところが、日本国内でパウエル発言を引用する人々の多くは、イラク戦争の批判者である。そこで、「米国のパウエル長官ですら、人質たちへの自己責任論をいさめている」と、説得力をもたせようと一部だけを引用している。人質への責任論が出たきっかけが、彼らと家族の「自衛隊撤退要求」だっただけに、長官が自衛隊をも称賛していては都合が悪いのかもしれない。

もっとも、長官発言を孫引きする人々の多くは、パウエル長官が自衛隊派遣を称賛していることすら知らない。

「パウエル発言」の引用されない部分 自衛隊も「誇り」と称賛 4月28日
http://www.sankei.co.jp/news/040428/bun049.htm (もうリンク先ないけど)





この記者に怒られるんで、全文紹介。


「パウエル長官の真意はいったいどこにあったのか」って、どう考えても「リスクを承知で善をなそうとする個人を称賛すること」でしょ。まあ、この記事は「論点のすりかえ」してるだけなんだけど。

「米国では、海外の危険地域で献身的なボランティア活動をした人々に対する尊敬の念が強い。同時に自国の軍に対する敬意と尊敬はそれ以上である」って、「それ以上」って、どーやって比較したんだよ。それ願望じゃん。つーか、どっちがエライとかそういうのがくだらねーって話なのに。必死すぎ。つか、なら、アンタらも「自衛隊への敬意と尊敬以下」でいいから、ほんのちょっとの敬意と尊敬を持って人質連中に接してくれよ。つか、敬意も尊敬のいらんから、スルーしてくれ。叩かなきゃそれで十分。

「長官発言を孫引きする人々の多くは、パウエル長官が自衛隊派遣を称賛していることすら知らない」って、んなわけねーじゃん。いまさらだろって。誰でも知ってるって。言うまでもない。というか、パウエルが自衛隊派遣に否定的だったら、超びっくり。

こういう一行ツッコミみたいのは、どうとでも言えるし、アホらしいから興味ないんだけど、やってみた。


つーかさ、引用ってのは、普通は必要なところしか抜かないでしょって。やっちゃいけないのは、発言者の意図を損ねるような引用のしかたでしょ。自分の都合に合わせて、発言の一部だけを引用し、その発言者の本来の意図をねじ曲げるようなやり方。ようするに、パウエルは人質たちを称賛する気なんかまったくないのに、そう見せかけるようなやり方。そういうのがダメなんで。このパウエル発言の場合は、全然違う。原文全部をどう読んでも、人質連中を称賛してるようにしか受け取れない。なので、その部分だけ引用するのはまったく普通。



んで、この記事のポイントはここ。

米国務省が公表しているインタビューの一問一答で確認してみると、確かに「日本人は自ら行動した国民がいることを誇りに思うべきだ」と述べている。ところが、パウエル長官は続いて「また、イラクに自衛隊を派遣したことも、誇りに思うべきである」と、実は自衛隊を並列において称賛していた。


おそらく、この記事は、もし人質擁護派がパウエル発言を使うなら、自衛隊派遣も擁護しなきゃならないと言いたいのだと思う。でもね、全然違う。そういうアホみたいに単純な論点しか提示できないのが悲しすぎ。

でもその前に、ここの部分が誤訳してると思った。わざとかもしれないが。というか、わざとでしょ。

原文は↓

the Japanese people should be very proud that they have citizens like this willing to do that, and very proud of the soldiers that you are sending to Iraq that they are willing to take that risk. (インタビュー全文は↓)


パウエル長官は「自衛隊員(soldiers)も誇りに思うべきだ」と言っていて、どんな自衛隊員かと
いうと、that以下の「あなたたちがイラクに送っている自衛隊員」だと。「イラクに自衛隊を派遣
したこと」を「誇りに思うべき」とは言ってない。(もちろん、↑で書いたように、パウエルはそう思ってるだろうし、そう言ったとしても当然だけど。)


この記事書いた人はわざと誤訳したんだろうけど、というか発言の捏造でしょと思うけど、この記事の意味がわからない。パウエルが自衛隊派遣を称賛してるなんて誰でも知ってることなのに。このインタビューは、金平がパウエルから「人質100%称賛」の言葉を、予想以上の言葉を引き出したことに意味がある。

この記者に言いたい。どうせなら、パウエルから「人質非難」の言質取ってこいよと。

というか、このネタについてはこの記事が出る前から、同じようなこと言ってる人がネット上にいた。おそらく、ネットから拾ってきたのだろう。アホらし、とか思ってたけど、まさか大手メディアがそのまま記事にするとは。とほほほ。



とりあえず、重要な部分だけオレ訳しとく。


SECRETARY POWELL: Well, everybody should understand the risk they are taking by going into dangerous areas. But if nobody was willing to take a risk, then we would never move forward. We would never move our world forward.

(危険なところへ行くことによって生じるリスクは理解すべき。けど、誰もリスクをとろうとしなかったら、私たちは決して前へは進めない。私たちは世界を前進させられない。)

And so I'm pleased that these Japanese citizens were willing to put themselves at risk for a greater good, for a better purpose. And the Japanese people should be very proud that they have citizens like this willing to do that, and very proud of the soldiers that you are sending to Iraq that they are willing to take that risk.

(んでもって、あの三人の日本人たちが、より偉大な善のため、より崇高な目的のために、すすんで自分たちを危険に晒したことを、嬉しく思う。日本人は、そういうことをすすんでしようとする市民を持っていることを、おおいに誇りに思うべき。そして、そういう危険をすすんで引き受ける、あなたたちがイラクに送っている自衛隊員(soldiers)をおおいに誇りに思うべき。)

But even when, because of that risk, they get captured, it doesn't mean we can say, "Well, you took the risk. It's your fault." No, we still have an obligation to do everything we can to recover them safely and we have an obligation to be deeply concerned about them. They are our friends. They are our neighbors. They are our fellow citizens.

(んで、そういうリスクのせいで、そういう彼らが拘束されちゃったとしても、「てめーでリスクを引き受けたんだから、てめーのせいだ(てめーが悪い)」なんて私たちが言えるわけじゃない。絶対言えない。私たちには、それでも、彼らの安全のためにできることをする義務がある。そして、彼らのことを心から心配する義務がある。彼らは私たちの友人であり、隣人であり、同じ市民なのだから。)



で、パウエルは人質たち同様に、志を持ってリスク覚悟でイラクに行った「自衛隊員」を誇りに
思うべきと言ってるのだから、自衛隊派遣(国家の政策)に反対することと、自衛隊員の志を誇りに思うことは矛盾しない。だから、自衛隊派遣には反対の人間(パウエルはもちろん賛成だが)でも、自衛隊員の志を誇りに思うことはできる。個人の話をしてる。人間の話をしてる。

日本政府の政策と自衛隊員個人は分けて考えてる。日本政府の政策には反対だが、自衛隊員個人個人に文句はないだろう。自衛隊員と民間人の志を分けてない。民間だろうとなんだろうと志は一緒。バッシングしている方が、自衛隊員と民間人の志を分けてる。 

自衛隊員を誇りに思うなら、人質も誇りに思えやと。パウエル発言から言えることはこう。


ついでに、僕が最初にこのインタビューを見たニュースでは、「自衛隊員」のところもちゃんと流してたけど。筑紫さんの番組でも流してたと思う。別に、人質称賛部分を弱めるようなことじゃないし。逆に、この部分を流した方が、「自衛隊員はいいけど、人質はダメ」って人にも、「そうだよな。公のために頑張る志は同じだよな」と思ってもらえるかもしれない。全然、「都合が悪」くない。



まあ、僕としては、パウエル発言をテレビで最初に見たときは、「なんだかんだ言ってもアメリカだな」と思った。筑紫さんもそんなこと言ってたような。

ようするに、アメリカでは、「公」(public)の領域(public sector)ってのは公的機関(官)だけを意味するのではなく、NGOやボランティアやなども含むと。官以外のパブリックな活動が軽視されることはないと。寄付に対する税控除とかにもあらわれてる。税金を官に払う替わりに、自分の期待する公の活動をしている団体に寄付してもいい。

公ってのは国家じゃない。公とは社会みたいなもん。利益じゃなく、社会のためを第一に考える活動する人間は公に殉じているといえる。官以外を蔑視するなと。ま、だから、日本の外交官や自衛隊員の公の活動を称賛するなら、民間の人間の公の活動も称賛しようぜと。基本的には同じパブリックな活動してんだからと。
 
 

「サイゾー」での、宮台真司と宮崎哲哉の対談「M2」で、二人がもっと厳密な話をしてたような(うろ覚え)。↑の僕の発想はまだまだ甘いというか、バッシング派にだいぶ譲歩してるようなかんじ。この二人の立場はもっと踏み込んでるというか、ラディカル。

日本では「パブリック=会社や役所」で、それ以外の活動は全部「私的趣味」みたいな領域になっちゃってると。「公」と「私」の概念が欧米と逆になっていると。欧米だったら、私的に、自発的にやる活動が「公」であって、自己の利益(給与のための仕事や利潤追求の企業活動)のための活動こそが「私」だと。

だから、もし今回被害に会ったのが会社の仕事で現地にいた人だったら、同情があつまっただろうけど、そうじゃない、「私的趣味」でのこのこ行った奴なんか、助けたり同情する必要なんてねーだろ、ってことになったのではと。

でも、「企業活動」なんてのは「企業の私的利潤追求活動」に過ぎないわけで、「国家活動」も「国家の国益追求活動」に過ぎないんだから、それこそが「私的趣味」だと。本当の「パブリック」ってもんは、自分がどこの会社の社員だとか、どこの国の国民だとか、そういった属性を全部とっぱらって思考したときにこそ立ち上がるもんだと。

ま、宮台と宮崎はイラク人質問題では防波堤としてがんばってたな。


そういえば、民主党なんか最近、「民と官の間に公がある」みたいなこと言ってるな。イメージとしては、いわゆる「市民社会論」ってかんじかな。



ところで、パウエルさん、「そういうリスクのせいで、そういう彼らが拘束されちゃったとしても、「てめーでリスクを引き受けたんだから、てめーのせいだ」なんて私たちが言えるわけじゃない」と言ってたけど、「イラク人質問題 10  自己責任 ① 」で僕がとった立場よりはるかに寛容だな。そこでは、「拘束・監禁・死の危険の三点セット」は連中の責任ってことにしたけど。もちろん、「イラク人質問題 11 自己責任 ②」では、それもあやしいとしたけども。

てか、パウエルの立場は、そんな責任なんてはっきりするかボケェ、だと思う。どこまでが責任とかそういう話じゃなくて、受け止めるこっち側の姿勢の問題だ、ってことだろう。


というか、何度か書いたけど、当然、日本の政治家がパウエルみたいなこと言うと思ってた。これが普通だと。別にパウエルの発言そのものはいたって普通で誉めるほどではない。それにパウエルの本音は知らんし。

なんか悲惨な事故とかあったら、政治家だったらテキトーにキレイゴトくらい言うのが普通。たとえ本音ではそんな気が全然なくても。このパウエル発言もそんなもん。普通。簡単。誰にでも言える。いや、逆にキモイくらい人質たちを称賛しまくりかな。そこまで言わんでいいってってくらい。ほんとにそう思ってんのか~?とか疑っちゃうくらい。パウエルが素でああいう風に思ってるなら、やっぱ、下っ端の兵士だった経験のせいなのかな。どうだろう。

なんにせよ、日本の一部の政治家の発言があまりに酷いんで、パウエルが輝く輝く。


ニュース

Jill Carroll: Former Islamic militant calls for her release
Female Prisoners Key in Iraq Hostage Drama



「パウエルvs金平」の全文は↓

Colin L. Powell On Release of Japanese Hostages
Friday, 16 April 2004, 1:40 pm
Press Release: US State Department
Interview on Tokyo Broadcasting System International with Shigenori Kanehira
Secretary Colin L. Powell Washington, DC April 15, 2004

MR. KANEHIRA: Thank you so much, Secretary. We just received the good news from Baghdad that three Japanese civilian hostages have been released in Baghdad.

SECRETARY POWELL: Yes.

MR. KANEHIRA: What is your reaction?

SECRETARY POWELL: I'm very pleased. I was very worried about the Japanese hostages and I'm so pleased that they have been released and they are safe.

MR. KANEHIRA: However, the group that took the four Italian hostages, they are taking as four Italian hostages. I'm sorry. However, that group that took four Italian captives claimed that it killed one of the hostages because Italian Prime Minister Berlusconi rejected its demands that he withdraw Italian troops.

It seems to me that both Prime Minister Koizumi and Berlusconi reacted in the same way. What do you think of the different outcome -- the reason for different outcome?

SECRETARY POWELL: Well, I don't know. We don't know who these criminals are who are holding hostages, and we regret that one of the four Italian hostages was killed.

The important point here is that both Prime Minister Koizumi and Prime Minister Berlusconi realize you can't give in to terror, you can't allow yourself to be put at the mercy of terrorists.

We regret any hostage situation. Nobody wants to imagine what it would be like for a member of their family to be taken hostage, and we will do everything we can to rescue these people.

But you must not give in to the hostage-taker. You must not say, "Oh, it's okay, we will now do what you want." Because they will just place new demands on you.

The civilized world must stand against this kind of activity, and I am pleased that Prime Minister Koizumi, Prime Minister Berlusconi, President Bush, President Blair and other leaders have the courage to stand up against this kind of threat from terrorists.

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MR. KANEHIRA: In the history of the modern nation, it is said every government has an obligation to protect their own citizens. Some people in Japan are saying that those who are kidnapped are willing to take risk and they were expected to assume the responsibility for their own act. What is your comment?

SECRETARY POWELL: Well, everybody should understand the risk they are taking by going into dangerous areas. But if nobody was willing to take a risk, then we would never move forward. We would never move our world forward.

And so I'm pleased that these Japanese citizens were willing to put themselves at risk for a greater good, for a better purpose. And the Japanese people should be very proud that they have citizens like this willing to do that, and very proud of the soldiers that you are sending to Iraq that they are willing to take that risk.

But even when, because of that risk, they get captured, it doesn't mean we can say, "Well, you took the risk. It's your fault." No, we still have an obligation to do everything we can to recover them safely and we have an obligation to be deeply concerned about them. They are our friends. They are our neighbors. They are our fellow citizens.

MR. KANEHIRA: According to the latest information, Usama bin Laden sent an audiotape with the intention to divide the coalition of European countries with current security situation increasingly unstable. What are the implications for the United States?

SECRETARY POWELL: Well, he is exactly what we have told the world he is -- a terrorist -- and we have to reject any demands that come from him. You can't negotiate with Usama bin Laden. He is a terrorist. He is a murderer. And he must be seen as that and he must be brought to justice.

And I hope that, because of this tape today, the world will once again see him for what he is and come together even more strongly than we have in the past in this common fight against terrorism.

MR. KANEHIRA: The last question. I read through your biography, My American Journey. It's very impressed. And your government scoffed at the comparison between Iraq and Vietnam that have been made. However, increasingly, the American media is making a comparison and the American public are more and more seeing the similarities.

And even if it is a false comparison, as the Administration argues, what is the danger of this perception perpetuating in reality if a complete exit strategy is not soon discovered?

SECRETARY POWELL: We do have a strategy. And what makes Iraq different from Vietnam or any other conflict is that it's Iraq, not Vietnam; it's Iraq, not Lebanon. It's Iraq.

And we have a clear strategy of what we're trying to achieve in Iraq. The first goal we had was to remove a regime, an evil regime, a dictator. He's gone. We did that. We accomplished it. So there's no confusion about our mission there, and we accomplished that mission.

The next mission was to build a democracy, to put in place a functioning democracy in Iraq that its people could be proud of, and a country that would live in peace with its neighbors. We are working on that objective now. And we have put in a great deal of money. We have put in a large number of soldiers. We have brought in the UN. We have brought in many nations to help us.

And so we are going to achieve that goal, too. We have not lost sight of our goal. We know what our objective is and we are applying the resources to that objective. And we will be successful.

MR. KANEHIRA: Thank you so much.

2004/409

[End]

Released on April 15, 2004


http://www.scoop.co.nz/stories/WO0404/S00167.htm
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by mudaidesu | 2006-01-25 01:04 | イラク人質事件


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